疑惑

夏目漱石の小説「こころ」の中で、「先生」と「私」の間で財産や親戚の話題になったときに、「先生」が「私」に言った言葉が、「こころ」の中で私にとって印象的な箇所です。

「・・・悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型いかたに入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。・・・」

   夏目漱石「こころ」二十八より

 漱石の「悪人は世の中にあるはずがない」の対局として、悪女を扱った邦画「疑惑」があります。桃井かおり演じる悪女が、犯人と疑われる中で、岩下志麻演じる女性弁護士が「悪女だけど、悪いことはしていない」、つまり犯罪を犯しておらず無罪であることを導くストーリーです。映画館に観に行った記憶もあり、その後テレビの放映を見た記憶もありますが、随分観ていません。

 正月休みに、映画「疑惑」のことを思い出して、急に観たくなって、アマゾンで中古を買いました。

「悪人は世の中にあるはずがない」という漱石に対して、映画・疑惑では、桃井かおり演じる「恐喝・傷害などで前科四犯の悪名高い女」が被疑者となった事件において、疑われても仕方がない状態で状況証拠が揃っている中で「実際には悪いことはしていない」というコントラストが印象に残っています。

この週末に、ゆっくり観たいと思っています。